信濃川河川敷問題は記者なら周知の事実だった
ジャーナリストの立花隆さんが亡くなりました。
ご冥福をお祈り申し上げます。news.yahoo.co.jp
立花氏といえば、1974年「田中角栄研究 その金脈と人脈」を文芸春秋誌に発表し、当時の田中内閣を退陣に追い込んだことで有名です。
その中で問題視したのが、田中ファミリー企業群が信濃川河川敷における約4億円で買収した土地が直後に建設省の工事によって時価数百億円となった信濃川河川敷の案件です。
昨日のブログで書きましたが、私は1980年日本経済研究センターに出向、新聞記者の方と親しく話をする機会が多くありました。
そこで
「信濃川河川敷の問題は新聞記者なら誰でも知っていた。ただ記事にすることはどの新聞社もできなかった。文芸春秋は新聞社と関係ないから書けた。」
という話を何度か聞きました。
新聞記者は政治家から情報を聞きこんで記事にするのが仕事、世話になっている政治家を背後から刺すことなどできないという訳です。
当時は銀行が郵便貯金の攻勢に苦戦していた頃で、私が記者に
「郵便貯金(定額貯金)の制度は公正を欠いている。郵便局の集め方もルール(定額貯金は一人300万円した預入できない)を逸脱している。きちんと調べて記事にして欲しい」
とお願いすると、
「郵便局の所管は郵政省(現総務省)、郵政省は電波も所管しており、テレビ事業を強化していくうえで郵政省を刺激する記事は書けない。」
と一蹴されました。
新聞社といっても私企業、自らの事業に不利になることは書けないし書かないということをいやというほど知りました。
現在でもそれは事実だと思います。
インターネットなどない当時において、メディアといえば新聞社系(テレビ局を含む)と雑誌社系(週刊現代、週刊ポスト、週刊文春、週刊新潮等)が主流でした。
新聞社系はしがらみが多くありますが、雑誌社系ならしがらみはさほどありません。
立花氏の功績は事実を発見したというより、周知の事実をきちんと検証し、雑誌社系の文芸春秋と組んで、知らされざる事実を国民に知らしめたことにあると思います。
国民の知る権利を実現してくれたのです。立花氏が書かなければ闇の葬られたかもしれません。
文芸春秋も公表にあたっては相当の覚悟がいったのではないでしょうか。
文春砲は今も健在
黒川元検事長の賭けマージャン問題、河合元法相の不正選挙問題、総務省の接待問題など文春砲の威力は今でも強力です。
田中金脈問題から続く姿勢が脈々と息づいています。
私は記事の根源は雑誌記者の聞き込みではなく、内部関係者のリークが中心と考えていますが、なぜスクープが文春に集中するのでしょうか。
リークする側としては新聞社系では握りつぶされたり逆に通報される不安があり、雑誌社系でリーク者を守ってくれてきちんとした記事にしてくれる文春にリーク情報が集中するのではないかと考えています。
文春もリークにすぐ飛びつくのではなく、丹念に裏を取ってから記事にしているように思えます。
では新聞は信用できないとかいうと、そういうことではありません。
私はメディアの信用度は
新聞社系>雑誌社系>インターネットの情報
と考えています。
先ほどの新聞記者の話によると、
「新聞記者は事実を正確に伝える事が最も重要と考えている。一方、雑誌の記事はたしかに面白く引き込まれるけど、一つのことを十倍くらいに引き伸ばして記事を書いている」
とのことです。
新聞は定期購読者に支えられているけど、雑誌は1号1号が勝負。読者を引き付けなければ売れません。誇張や盛り付けは存在すると考えておいた方がよさそうです。
ただ、新聞では伝えられない(伝えない)情報があることも頭に入れておかねばなりません。
今は情報過多の時代、あやしげな情報があふれる一方で、伝えられない情報もあります。
敏感にアンテナをめぐらし、自分で確かめていく他はありません。