住まいはテレビ塔の下?
もう30年くらい前の話です。
当時は名古屋駅にほど近い店舗に副支店長として勤務していました。
ある時、預金担当の課長から私に
「紛失したとの届けが出ている通帳から預金を引き出そうと窓口に来店したお客がいる」
との連絡がありました。
通帳と印鑑を紛失したとの電話連絡を、その日の朝受けていました。
来店したのは預金者本人ではなさそうです。
応接にその男を入れ、私が応対しました。
私「この通帳はあなたのものではないですね。」
男「違う。頼まれたので、自分が引き出しにきた。」
私「頼んだ人はどこにいますか?」
男「近くで待っている。」
早速、若手行員をその場所に向かわせましたが、向こうも気配を察知し足早に逃げてしまいました。
私「頼んだ人とはどういう関係ですか」
男「よく知らない。引き出したらお礼をくれると言われたので、引き出しにきた。」
預金者に電話したところ、留守で電話には出ません。当時携帯電話を持っている人はほとんどいませんでしたから、留守だと連絡をつけようがありません。
男の行為は犯罪ですが、当事者からの訴えがなければ警察に引き渡すこともできません。預金通帳も印鑑も銀行で預かったので、被害はありません。
私「お名前は?」
男「〇〇〇〇」
私「お住まいは?」
男「テレビ塔の下」
テレビ塔とは名古屋の中心部にあるランドマークの一つです。
どうもホームレスのようです。
当然電話もなく、今後連絡のつけようがありません。
やむなく、使いかけのテレホンカード(当時は皆持っていました)と名刺を渡し、明日の10時からいに私に連絡するよう伝え、お帰り願いました。(テレビ塔に帰ったかは不明ですが・・・)
正直なところ、明日連絡がくることは期待していませんでしたが、やれることはやっておかねばなりませんので・・・
翌日、連絡がきた!
さて、次の日の朝、通帳をなくされた預金者の方と連絡が取れました。
預金を引き出しに来た男については、被害が無かったので、警察沙汰にする必要はないとのことでした。
私としてはこれで一件落着というところです。
ところが、しばらくして私宛に電話がありました。
通帳から預金を引き出そうとした男からです。
きちんと約束を守ってくれたのです。人は見かけで判断してはいけません。
やったことは褒められませんが、根はいい人のようです。
彼との会話には嘘はなかったような気がします。(本当にテレビ塔の近くで寝泊まりしているのかもしれません)
彼には預金者の意向を伝えて電話を切りました。
通帳や印鑑、キャッシュカードをなくしたらすぐに銀行に連絡しましょう。(大半が24時間対応です)
そうすれば預金が不正に引き出されることはありません。
できれば通帳と印鑑は別の場所に保管すればリスク分散になります。