怪しげな人に返済を督促する
まだ20代、東京の都心店舗に事務行員(ヒラ社員)として勤務していた頃の話です。
前任者からの引継ぎに過去の事故貸(回収不能の貸出)の回収というのがあり、対象先にも挨拶に行きました。
そのうちの一人とは支店近くにある繁華街の地下の映画館の映写室で会いました。B級ポルノ映画を上映しています。
前任者に連れられて挨拶に行きましたが、物腰はおだやかなものの、負のオーラがただならず、反社会的勢力と関わりがあるかもしれません。
転勤するまでは関わりたくないというのが本音です。
ところがしばらくして銀行の本部の不慮債権回収をしている部署から電話がかかってきました。
「この貸出(上記の事故貸)はあと1年で時効が到来する。至急時効中断措置を取れ。」
この貸出は列島改造ブーム(田中角栄内閣の頃)時に3億円融資し、2億円返済されたものの9年前事故貸となっていました。貸出債権の時効は10年で到来します。(当時)
この貸出金には担保が設定されていました。
担保権の実行等の手続きがされて、取り下げ等されずに手続きが終了すれば、時効が更新されますので、競売手続きにかかることにしました。
消滅時効の更新(改正前民法の「中断」)|松谷司法書士事務所 (kabarai-sp.jp)
競売する以上当事者に伝えなければなりませんが、私以外に面識がある者がおらず、上司とともに競売の旨を伝達、特にリアクションはなくやれやれという気持ちで銀行に戻りました。
ところが競売の対象不動産は長野の山奥にあり、面積は広いものの利用価値は乏しく、競売落札の目途がたちません。
突然多額の現金を持って返済に
そうこうしているうちに、銀行にこの事故貸の当事者が突然銀行に現れました。
私を見つけると、
「おい、小僧」
という感じで私を呼びつけました。
あいにく上司は不在で、やむなく私一人で対応。
やおら、紙袋を私の前に置き、中から札束を出し「数えろ」
私が「ご返済の資金ですか」
と尋ねると
「そうだ、そのかわり競売は取り下げろ。」
早速、出納係に現金を数えさせました。3,000万円もあります。
競売は落札の目途がたたず、このままでは取り下げざるをえない状況。
そこに3,000万円も返済してもらえるのですから御の字です。
気の変わらないうちに返済手続きをして、お帰り願いました。
次長が帰ってきたので、勇躍この報告をすると
次長「債務承認書は徴求したのか」
私「自から返済をすれば、時効は中断しますから債務承認書は不要です。」
次長「万一に備え、書類を揃えて置くことが重要だ。すぐ貰ってこい。」
(この辺の法律的なことはは上記消滅時効の更新のサイトをご覧ください。)
やむなく一人で書類を貰いに行くことに・・・
偉い人(次長は当時支店のNo2です)には逆らえず、やむなく私一人で債務承認書を取りに行くことに・・・
多人数で押しかけてもかえって警戒されるでしょうから。
でも得体のしれない人ですから怖いです。
そのまま監禁されたらどうしよう・・・
万一に備え同僚に「30分して帰ってこなかったら迎えに来て欲しい」と伝えて、先方に向かいました。
「せっかくご返済いただいたのに、書類をいただくのを忘れていました。これを頂くと事実関係が明確になり、競売の取り下げができます。」
などと、その場しのぎの言葉で説明し、書類をいただきました。
毅然と話しているつもりですが、心の中では不安がいっぱいでした。
滞在すること5分、一目散に銀行に戻りました。
あー、怖かった
というのが本音です。無事戻れてよかった。
せっかく9年間返済の無かった事故貸を3,000万円も回収したのに、ろくなお褒めの言葉もありませんでした。
まあ、無事で終わったからよしとしないと・・・
それにしても3,000万円ものお金をどうやって用立てたのでしょう?
ろくに価値のない不動産の競売回避のために何故3,000万円もの返済をしたのでしょう。
謎は深まるばかりです。
本人に聞けば、何かわかるかもしれませんが、恐ろしくてそんなことは聞けません。
余計な事を詮索しても始まりません。
その後しばらくして転勤したので、この事故貸がどうなったか知る由もありません。