お金を置き忘れた!
名古屋市内の店で副支店長をしていた銀行時代の話です。
年の瀬も迫ったある日、おじいさんから「ATMに置いてあったお金が見当たらない」という申し出を受けました。
どうも話が分かりにくいので、よく話を聞いてみると、
おじいさんがATMからお金を引き出し、封筒に入れたのですが、どういう訳はその封筒をATMに置いたまま家に帰ってしまったということです。
お金を忘れたことに気が付いて慌ててATMに戻ったところもうお金は残っていなかったということです。
引き出したのは本人曰く140万円。大金です。
当時(30年以上前)はオレオレ詐欺などはなく、ATMでも100万円以上の現金を引き出すことができました。
そんな大金を忘れるというのも変な話ですが、本人の様子を見ているとあながち冗談とも思えません。
ATMの周辺を探すも現金は見当たりません。窓口の行員に聞いても、忘れ物の届はなかったとのことです。
とりあえずおじいさんには店の近くの交番に紛失届を出したらどうかとアドバイスをしました。
防犯カメラの画像を調べると
その日の夕方、話の真偽を確認することにしました。
まず、おじいさんが引き出したというATMのジャーナルを調べました。ジャーナルにはATMの取引記録が印字されています。すると確かにおじいさんの口座から140万円が引き出されたことが確認できました。引き出し時間もジャーナルに印刷されています。
次に防犯カメラのチェックです。該当のATMを撮影した映像をチェックします。当時のカメラの映像はVHSテープに記録されていました。画像の解像度が低く、かなり見づらいのがつらいところです。
カメラの映像にも時刻が記録されているので、ジャーナルの取引時刻のあたりを再生すると、おじいさんらしき人物がお金を引き出しています。
おじいさんは引き出したお金を封筒に詰め、ATMの横に置きました。そして何を思ったのか、お金を置いたまま帰ってしまったようです。
次にATMを利用した人の映像を見るとお金を入れた封筒が横に置かれたままです。
そのまま4人ほどがATMを利用しましたが、封筒は置かれたままです。
おじいさんがすぐ気が付いて戻ってくれば封筒は残っていたのですが・・・
5人目の人は封筒に気が付いたようで、封筒の上にカバンを置きました。そして自分の取引が終わるとカバンを持って立ち去りましたが、もう封筒は残っていません。
どうやらこの人が封筒を持ち帰ったようです。
ジャーナルを確認すると、この人はサラ金に送金しに来たようです。ジャーナルにはこの人の名前と電話番号が印字されていました。
翌日この話をおじいさんに伝えました。おじいさんが交番にこの話を伝えれば、警察の判断で銀行にテープとジャーナルの提出を要請するはずです。
銀行から勝手に警察にテープやジャーナルを提出することはできません。
その後しばらくして、警察からテープとジャーナルを借用したいとの令状が届き、提出しました。
銀行として協力できるのはこのくらいです。
6か月後解決したが
それから半年後、おじいさんが銀行に来店しました。
どうやら無事解決したようです。
警察が動いたのはおじいさんが紛失届を出してから6か月後です。
当時は拾得物の届出期間が6か月だったので、それまで待っていたようです。
下記サイトの①をご覧ください。
https://www.npa.go.jp/safetylife/chiiki2/summary2.pdf
今は3か月に短縮されています。
ビデオに映っていた人物を遺失物横領罪で逮捕したようです。(おじいさんの話なので、実際は捜査の段階だったのかもしれません。)
おじいさんの話によると、最終的には横領した人物の父親が全額を払うことで和解したとのことです。
上記サイトにもあるように、遺失物横領罪は基本的には軽微な犯罪と捉えられることも多く、初犯で弁済が済んでおり本人に反省の意思が見えるようでしたら、逮捕・捜査されても不起訴処分になる可能性が高いようです。
横領した人物も盗もうと狙っていたわけではなく、たまたま大金が置いてあったので、ついつい頂戴してしまったということでしょうか。サラ金に返済しているので、お金に困っていたのかもしれません。もちろん横領は許されませんが、同情の余地があったのでしょう。そもそもおじいさんがお金を置き忘れたのが、この事件の発端ですし。
それにしても、おじいさんにお金が戻ってよかったですね。
銀行側に責任はないとはいえ、もやもやとしたものが残るところでした。
それ以来、ATMコーナーが閉まってから、忘れ物がないか念入りに点検するようになりました。
営業時間中も、しばしばATMコーナーを視察するようになりました。
もちろん何も起こりませんでしたが・・・