年金は一括請求できる
65歳の誕生日が近づくと日本年金機構から「年金請求書兼加給金勧奨状の提出のお願い」という案内が届きます。
年金の受け取り方法を下記から選択し、年金をすぐ受け取る場合は同封の年金請求書を提出してくださいという案内状です。
①65歳から老齢基礎年金、老齢厚生年金を受け取る
②老齢厚生年金のみ繰り下げ
③老齢厚生年金のみ繰り下げ
④老齢基礎年金、老齢厚生年金両方を繰り下げ
①②③のどれかを選択する場合は年金請求書の提出が必要です。「提出が遅れると65歳以降のお支払いが一旦停止します。ご注意ください」という文言が添えられています。年金が貰えなくなると勘違いし、あわてて請求書を提出される方も少なからずおられると思います。
④の繰り下げを選択した場合は、請求書を提出する必要はありません。放っておけばよいのです。繰り下げ受給のメリットは66歳以降に繰り下げ年金請求を行うと、受給期間を1か月遅らせる毎に年金額が0.7%ずつ増額されます。1年間で8.4%、5年間4なら42%の増額になります。
日本年金機構の案内状の趣旨は上記の通りですが、ここに書かれていない選択肢があります。
年金の一括請求という方法です。
65歳になって年金受給権が発生しても請求していなければ、未支給年金(65歳から請求時点迄の分)を一括請求することができます。
一括請求は金受給権が発生しているにもかかわらず、請求手続きを失念した人の救済措置として設けられたものです。
ただこの制度は繰り下げ受給による支給額増加を期待して受給開始を延ばしている人にも適用されます。ただし繰り下げによる増額は認められず、65歳時点の金額で計算されます。
下記の日本年金機構のサイトの「老齢厚生年金繰下げ請求にかかる注意点」の7にこう書かれています。
老齢厚生年金の繰下げ受給|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
「繰下げによる増額請求」または「増額のない年金をさかのぼって受給」のどちらか一方を選択できます
繰下げ請求をせず、66歳以後に65歳にさかのぼって、本来支給の年金を請求することもできます。70歳到達(誕生日の前日)月より後に65歳時にさかのぼった請求が行われると、時効により年金が支払われない部分が発生します。必ず70歳到達月までに請求してください。
65歳時点の選択肢を整理すると
これを踏まえ、65歳時点での選択肢を整理すると下図のようになります。
もし年金を毎年100万円受給できる人がいると、65歳時点で
①65歳から毎年100万円の年金を受け取る
②年金の受け取りを保留する(請求書を提出しない)
という選択肢があることになります。②を選んでも年金繰り下げ受給を選択したことにはなりません。後日、一括請求か繰り下げ受給かを決めればよいのです。
もし、68歳から年金を受け取ろうとすると
②ー①3年分の年金300万円を受け取り、以後は100万円の年金を受け取る(一括請求を選択)
②ー②68歳から増額された年金1,252,000円を毎年受け取る(繰り下げ受給を選択)
の、どちらかを選ぶことができます。
②ー①を選ぶ人は繰り下げ受給本来のメリット(年金の増額)を受けられないため、あまりいないかもしれません。
ただ、年金繰り下げ中に大病を患ったり、災害に遭遇したりしてまとまったお金が必要になる場合があります。
この場合は②ー①を選択し、過年度分を受け取ることができます。
①を選択した場合と、②ー①(一括請求)を選択した場合の総受取額は変わりません。
早めに受け取れば若干利息がつくかもしれませんが、金利はごく僅かです。
もし65歳の時点で年金を受給しなくてもとりあえず生活できるのであれば、年金の受給は一旦保留しておき、その後の状況をみながら、5年以内に
〇過去分をまとめて受け取り、その後は65歳時点の年金を受け取る
〇増額された年金を受け取る
のどちらかを選択すればよいのです。
長生きした場合、年金は多ければ多いほど助かります。
65歳時点で迷っているようであれば、とりあえず保留しておくのがお勧めです。
特に女性の方は男性より平均寿命が長いですから夫の年金でしばらく暮らせるなら、急いで受け取らずしばらく様子をみていたらいかがでしょうか。
年金一括請求の留意点
〇年金の請求時効は5年です。
一括請求で受け取れる年金は直近5年分ですので、70歳を超えて一括請求すると貰えない分がでてきます。
〇未支給年金がある人が死亡した場合、遺族にその分が支給されます。年金の繰り下げ受給を意図して請求をしていない分も未支給年金として同様の扱いを受けます。
年金を受けている方が亡くなったとき|日本年金機構 (nenkin.go.jp)
〇年金を一括受給すると所得税が発生する場合があります。その場合は過去分を確定申告することで、税負担を軽減することができます。
年金の一括請求は本来年金の請求を忘れた人の救済策で利用する人はほとんどいないと思われますが、覚えておくと役に立つ可能性があります。