故人の債務を調べるのは簡単ではない
先般のブログで相続放棄のことを書きました。
被相続人(故人)の債務が資産を上回っていれば相続放棄が視野に入りますし、そうでなくても相続税の計算や相続財産の配分のためには債務の確認は避けて通れません。
相続財産から引いて計算できるもの「債務控除」|相続税コラム (ht-tax.or.jp)
ただ故人の負債を全て調べるのは大変です。
生前に聞いても借金のことは話したがらないのが普通です。
上記サイトでは負債の例として下記のものが掲載されています。
●消費者金融、クレジットカードやカードローンの負債
●事業用のローンや融資残
●個人からの借金
●滞納家賃、滞納水道光熱費、滞納通信料、スマホ代、滞納税
●連帯保証債務
その他にも、病院の入院費用や老人ホームの費用が未払いになっている可能性もあります。
家賃や水道料等を滞納するケースは少ないと思いますが、通常1か月分程度は未払い分があるのが普通です。
借入以外はそれほど金額が多くなることはないと思いますが、個人が亡くなる直前に不動産や株式を売却していた場合多額の未納税額残っている可能性があります。
まずは通帳を調べる
まずは普通預金通帳を記帳し、動きを1行1行チェックすることが大切です。
家賃や水道光熱費、電話料は口座振替で引き落とされる場合が多いので、毎月引き落としがあり、かつ前月分が落ちていれば滞納はないと考えられます。
カード会社の引き落としも口座振替が多いと思いますが、前月まで引き落としがなされていれば延滞はないと思われます。ただ前月に大きな買い物をしている可能性もありますので、カード会社に問い合わせておくのが無難そうです。電話料等がカードから引き落とされるケースも多いので内訳もチェックしておく必要があります。
住宅ローンなど銀行からの借り入れも毎月口座から返済が行われます。
家賃等は振込で払うこともあるので、振込先も確認しておきましょう。
銀行に確認
預金者が亡くなれば銀行に連絡することになりますが、その際借入があるなら残高を確認しておくとよいと思います。
預金が凍結されるので、相続が終わる迄返済もストップします。
借入が住宅ローンであれば団体信用生命保険(団信)が付保されているにが普通ですので、保険により借入が全額返済されます。
アパートローンの場合は団信が付保されている場合と付保されていない場合があります。
団信の有無は銀行で確認し、ない場合はアパートの家賃収入で返済できるか検討することになります。またアパートの借主の敷金を預かっていると思われますので、こちらも債務になります。
団信による返済手続きは銀行からの連絡に従って進めれば難しくありません。
なお、全国銀行個人信用情報センター(KSC)に照会すれば、センターに加盟している金融機関からの借り入れ等の内容や支払状況などを確認できます。
銀行以外からの借入は調べるのが大変
銀行以外から借入があると調べるのが大変です。
故人宅にある書類には全て目を通しておいた方が無難です。
銀行以外の借入として考えられるのは
・勤務先からの借入
・経営している会社からの借入
・知人からの借入
などが考えられます。
消費者金融等については、「信用情報機関」へ情報開示する方法があります。
前述のKSCの他JICC、CICへも紹介することになります。
インターネットで開示する|情報開示とは|指定信用情報機関のCIC
スマートフォンによる開示手続き |日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関
勤務先からの借入については、死亡の連絡をすれば勤務先から連絡があると思います。(死亡退職金から返済するケースが多いと思います。)
故人が経営者の場合は会社からの借入金がある可能性がありますが、会社の決算書を見て確認することになります。
知人からの借入については調べるのは難しいと思います。
不動産の登記簿を確認する
相続財産に不動産がある時は、不動産の登記簿謄本を確認します。
不動産登記簿謄本(登記事項証明書)の見方を初心者にもやさしく徹底解説!「イエウール(家を売る)」 (ieul.jp)
登記簿はインターネットでも閲覧可能です。
ポイントは最後の方にでてくる権利部(乙区)のところで、ここで担保設定(抵当権、根抵当権)があるか確認できます。
担保設定がある場合は抵当権者(担保を設定した銀行等)に確認すれば、借入金が残っているか確認できます。借入が残っていなければ、相続手続きの際担保を抹消してもらう必要がありますので、借入の有無にかかわらず抵当権者への連絡は必須です。
保証債務は厄介
故人の保証債務がある場合は、調べるのが大変です。
遺品をさがしても、記録が残っていないケースが大半です。
保証した相手が返済(支払)不能にならない限り、保証人には請求がきませんので手掛かりがないのが大半です。
また、保証債務は相続財産から控除できません。
No.4126 相続財産から控除できる債務|国税庁 (nta.go.jp)
故人が中小企業を経営していた場合は、会社の連帯保証人になっているケースが多いと思います。この場合は会社の取引銀行に連絡して、対応を相談することになります。ご家族の方が会社経営を継ぐ場合は、その方が連帯保証人になるよう要請されることが多いと思います。会社の経営内容が良ければ、連帯保証をしなくてもよい場合もあります。
家族以外の方が会社経営を引き継ぐのであれば、その方に連帯保証の要請があると思われます。
会社の経営内容が悪ければ個人の死を機に会社を清算する可能性もあります。この場合は保証債務が負債に切り替わる可能性があります。
負債にあまり神経質になる必要はないと思いますが・・・
こう書くと負債を調べるのは大変なことと思われるかもしれませんが、個人(特に高齢者)がお金を借りることは簡単ではありません。貸してくれません。
あるとしたら住宅ローンですが、団信が付保されている場合がほとんどですので、問題はありません。
それ以外で多額の債務を残して亡くなるケースはあまりないと思われます。
通帳の預金残高が少なく公共料金等の支払いがしばしば遅延している場合や、不明瞭な預金引き出しがしばしばある場合など、借入が多い場合は何らかの痕跡があります。そうした場合に細かい調査を行えばよいかと思います。
ただ故人が会社の経営に携わっていた場合は、細心の注意が必要です。
この場合は、会社の取引銀行とよく話し合うしかありません。