株式の相続手続き
相続財産に株式が入っていることがあります。
株式も預金と同じように保有者が亡くなると相続人が勝手に処分することはできなくなります。(いったん相続人の共有財産になります。)
相続手続きが完了してから、株式の名義変更を行い、その後に時期をみて株式を売却することになります。(売却せず、そのまま保有していてもかまいません。)
相続の手続きは預金や不動産と基本的には変わりません。
相続財産の調査を行って相続財産を確定し、これに基づいて遺産分割協議を行い、決着したら名義変更を行うことになります。
預金や不動産なら短期間に価値が下落する可能性はあまりありませんが、株式の場合は突然大幅に値下がりすることも日常的にあります。
早めに相続手続きを進めておかないと無用のトラブルが起こりかねません。
上場株式と非上場株式
株式には上場株式と非上場株式があります。
上場株式とは証券取引所に登録されて取引所で売買される株式です。誰でも資金さえあれば上場株式を取得できます。
これに対し、取引所に登録されていない株式が非上場株式です。非上場株式は誰でも取得できる訳ではないので、相続財産の中に非上場株式があるケースはそうそうある訳ではありません。
ただ株式会社の数は日本に213万社もあり、その大半は非上場の会社です。非上場会社の株式は社長(代表取締役)だけが保有している訳ではありません。一般の役員が保有しているケースもありますし、社員が保有しているケースもあります。私の勤めていた会社(非上場会社)でも以前は半数以上の社員が会社の株を保有していました。
会社を退職しても何らかの理由で株式を保有していたり、見知らぬ会社の株式を相続で取得しているケースもあります。
もし相続財産の中に非上場株式が入っていると、処分等は少々面倒です。
保有株式を確認するには
上場株式でも非上場株式でも最低年1回は株主に議決権行使書が送られてきます。被相続人の郵便物を調べることが大切です。ただ一読した後ゴミに捨てられることも多いので、必ずしも残っているか分かりません。
無配でなければ配当金が送金されるので、預金通帳を丹念にチェックするのがお勧めです。3月決算の会社が多いので6月に配当金が入る可能性が高いと思います。
上場株式であれば証券会社に口座があることが普通なので、郵便物を調べて証券会社に照会する方法があります。口座が分かれば被相続人の保有する株式の内容を調べてもらえます。残高証明書を発行してもらうと保有株式の詳細が分かります。
非公開会社の場合は証券会社が介在しないケースが多いので、自分で調べるしかありません。ただ、公開会社と違い今でも株式を発行しているケースが多いので、株券が残っている可能性が高いと思われます。金庫等を探して非上場会社の株券が出てきたら、発行会社に速やかに連絡しましょう。手続きは発行会社から連絡が来ると思います。
株式の場合は故人宛てに議決権行使書が送られてきて、初めて保有の事実に気付くこともあるかと思います。1年間は故人の郵便物を必ず確認することが大切と思います。
ただ、既に相続手続きが完了していたり、相続税を納付済の場合もあると思います。(相続税の相続期限は10か月です。)その場合は事後の対応が必要になってきます。
上場株式の処分は比較的容易
保有株式を確認し、遺産分割協議が完了すれば、相続した株式の名義書き換えを行うことになります。書き換えに必要な書類は上場株式でも非上場株式でもあまり変わりません。
上場株式の場合は、相続人が被相続人の口座がある証券会社や信託銀行に届け出て、相続株式を相続人の口座に振り替えてもらうことになります。相続人がその証券会社(信託銀行)に口座を持っていない場合は新たに口座を作成することになります。
振替手続きが完了すれば、株式は任意のタイミングで市場で売却できます。
非上場株式の処分は大変
これに対し、非上場株式は発行会社に連絡して名義書き換え手続きを行うことになります。
非上場会社は株券を発行している場合が多いので、株式がないと手続きに時間がかかります。この場合は1年後に新株券が発行されることになります。
また非上場株式は発行会社の定款で譲渡制限が設けられていることが多くあります。私のいた会社で株式の譲渡は取締役会の承認が必要とされていました。
もし株式譲渡が不承認となると、発行会社に(もしくは発行会社の指定する代理人)に株式を買い取ってもらうことになります。
株式譲渡が承認されるのであれば、名義書き換え手続きを行い株式を相続人名義に変更してもらえます。
運よく名義書き換えができたとしても次のハードルがあります。
株式が上場されていないので、市場で売却することができません。非上場会社の株式を買いたいという人はまず見つかりません。発行会社に株式の買い取り義務はありません(株式譲渡が不承認となった場合は別です)。
毎年配当があればよいのですが、会社の業績が悪くなれば無配となってしまいます。最悪会社が倒産ということになれば株式は紙切れになってしまいます。
もちろん、上場会社が急成長し株式を公開できれば多額の売却益を享受できれることもあります。ただ、そんな会社は全国213万社のうち年間ほんの数十社に過ぎません。倒産する会社の方が遥かに多いのです。
ただ、非公開会社の中には会社に関係ない株主を減らそうとしていることも結構あり、相続の際に株式の引き取り手を紹介してくれることがあります。
私も前の会社では相続が発生すると引き取り手を探してきて、売却するよう勧めてきました。
欲を出さず、相続の際に売却するのも一つの考え方です。発行会社とよく話し合うことをお勧めします。