農地保有には制約がいっぱい
亡父の相続の話の続きです。
先般、農地の相続税計算の話をしましたが、相続税自体はよほど広い農地を相続しない限り大きな問題ではありません。
どちらかというと農地を引き続き耕作できるよう、優遇されています。
問題は私のように、離れた場所に住み、農業を行う意思のない人間が相続する場合です。
この場合、率直に言って、農地の相続は避けた方がベターです。
私の場合、長男という立場上、相続放棄をする訳にはいかず、他の相続人は不動産の相続を嫌がったので、やむなく農地を相続せざるをえませんでした。
農地は農地法により、利用、売買等が厳しく制限されています。
3条、4条、5条がポイントの条文です。
何をするにも、農業委員会や市町村の同意が必要です。
その分、固定資産税が優遇されているのです。
銀行員時代、まれに地目が農地(田、畑)の土地に抵当権を設定するケースがありましたが、その場合は4条に基づく農地の転用許可があることが絶対条件です。なければ肝心な時に処分できません。
相続したら農業委員会に届出
一方、相続の場合は届出だけで済みます。
便宜がはかられているというより、農地を相続させようという狙いと思います。
仮に、農業委員会(ないしは市町村)の許可が必要となれば、私のような農業を行う意思のない者の相続は拒否されるかもしれませんが、その方が助かります。相続したくはないのですから。
私の場合は浜松市に届出が必要で、書類は下記サイトからダウンロードしました。
浜松市農業委員会は区役所内にあり、窓口に出向くと、比較的簡単に受理され、その場で受理通知書が交付されました。
土地改良区とは何だ⁉
そうこうしている間、実家に下記の書類を提出するよう依頼があり、相続は事実なので、思うところは一杯ありましたがやむなく提出しました。死者(現資格者)が捺印するという今日では理解不能な書類ですが、それはさておき説明書類が一切ありません。とにかく判を押せというようです。
すると今度は土地改良区の事務局から通知が届き、賦課金を口座振替で引き落としたいので農協の口座振替依頼書を返送するよう依頼してきました。私には農協に口座などありませんし、名古屋住まいの私が静岡県の農協に口座など持つ必要はありません。
いずれにしても、土地改良区とは何か、どの土地が土地改良区の対象になっているのか、賦課金の根拠は何か等一切説明がありません。
土地改良区からは相続放棄以外脱退できない
そこで、土地改良区について調べてみました。
土地改良区とは、土地改良法により成立を認められている公法人で、かんがい排水事業(用水路・排水路整備)、圃場整備事業(農地を整備し田畑に水を引く)等の土地改良事業、用排水路等の維持管理などを行っているようです。
問題は その地区内にある土地について、土地改良法第3条の資格を有するものは、設立の同意、不同意に関係なく、すべてその土地改良区の組合員になることです。
農林水産省に問い合わせたところ、相続した場合も組合員になるとのことです。脱退は認められないとのことでした。(土地改良法42条)
組合員である以上、毎年賦課金を納めなければなりません。
農業用水を維持するためには当然ということなのでしょうが、農業をしていなくても末代迄永遠にカネを徴収するというのはかなり問題があると思います。
私の子供は相続した土地に縁はないですし、農業をすることは考えられません。負の遺産を代々相続していけというのでしょうか。近い将来の破綻は目に見えています。食料の自給を見据えれば法整備を含めた政策対応が必要ですが、反対勢力がいるのでしょうか。
賦課金を納めないためには相続放棄をするしかないようです。日本で所有者不明の土地が増えているのも、こんなところに原因があるのかもしれません。
内容を精査したところ
背景は理解したので、土地改良区に該当する土地の明細、土地改良区の定款・賦課金の根拠等が分かる書類を提出してもらうよう依頼しました。(事務の女性では対応できないので、直接理事長に依頼しました。)
すると、
- 土地改良区内にある農地(田)は1筆だけで、相続財産には入っていない。(他人名義の土地のようです)
- 畑が4筆あるが、これは土地改良区ではなく水利組合から賦課請求されている。(水利組合分は資料も添付されていません)
ことが分かりました。
土地改良区内の土地については、組合が所有者を確認のうえ支払は不要ということになりました。
水利組合分については土地区画整理組合では分からないという返事であり、直接該当の水利組合と話をしました。水利組合は土地改良区と違い法的な根拠がなく、賦課金も話し合いにより解決するようになるようです。
水利組合(用水組合、土地改良組合)とはどのような組織ですか。|徳島県庁コールセンター すだちくんコール
私としては該当の土地がミカン畑で手入れもされず放棄されており、かつ遠方に住んでいることを説明すると、賦課金の支払は必要ない旨の回答をいただきました。
ということで土地改良区、水利組合分とも賦課金の支払はないことで決着しました。
実は、金額も年3万円程度なので払う方向で考えていたのですが、きちんと内容を調べることにより解決することができました。
土地の所有者は面積等は役所の固定資産台帳や登記簿で分かるのですが、土地改良区のことはどこにもでてきません。相続を検討する際には分からないのです。
農地を相続する際には、くれぐれもご注意ください。
悪気はないのでしょうが、黙って判を押せという姿勢で対応を迫られます。
私は県の土地改良区担当者に電話をして、きちんと組合にきちんと説明するよう要請してもらいました。
冒頭にも書きましたように、農業を営まないのであれば相続しないのが一番です。
とはいえ他にも相続すべき財産があれば誰かが相続せざるをえず、自分のような長男にはつらいところです。