売上の中身を把握することが決算分析の第一歩
経営分析(財務分析)の本を読むと、比率分析等結構テクニカルな話が多くでてくる割に売上の話にはさほどスペースが割かれていません。
決算書(損益計算書)内では、売上高として1行しか表示されていないことが原因かと思われます。
外部からみると、売上高は中身がよく分からないため、分析しずらいのではないでしょうか。
有価証券報告書や税務申告書の後ろの方をみると、売上高の内訳欄がありますが、かなり大雑把なくくりで、分析には限りがあります。
私も税務申告書を作成しましたが、売上高の内訳欄は5種類くらいしか記入していませんでした。税務署も細かい要求はしてきません(税務調査となればコンピュータ内の仕訳データを吐き出せる)ので、こちらも手間ですから簡単にすませていました。
ただ、会社内で決算内容を分析するとなると話は別です。
なにしろ、中身を完全に把握できますので。(当たり前の話です。)
前の会社にいた頃、月初(月明け1週間後くらいに開催)の役員会でかならず前月決算の分析を報告していましたが、大半を売上とそれに対応する原価の分析に費やしていました。
最終的には利益(営業利益、経常利益)の増減要因(対予算比、対前年同期比)を報告するのですが、売上とそれに対応する原価を分析すれば説明は難しくはありません。
私は、売上データの中から、売上高、売上数量、販売単価、原価(システムで計算された積上原価1個当たりの原価)、売上先を抽出してエクセルデータに落として分析に利用していました。
一月で3万行くらいのエクセルデータが出力されるので扱いは面倒ですが、エクセルの機能を活用すれば分析は可能です。
このデータから売上高や粗利益(販売単価ー原価)の変動要因(前年同期や予算と比べての増減)を解明するのが重要です。
簡単な例を下記に示します。
売上高=数量×販売単価
粗利益=売上高―数量×原価
原価はシステム等で計算した標準原価であり、売上原価とは異なります。
売上高は3,500、粗利益は3,000増加していますが、その要因を求めると、
- 売上高はA,Cの販売数量増により5,500増加、ただしBの販売単価が下がったことから2,000の減少があり、結果として3,500の売上増となった。
- 粗利益はA,Cの販売数量増により2,000、Cの原価削減により3,000合わせて5,000増加。ただしBの販売単価下落により2,000減少したため、結果として3,000増加した。
ということになります。
次はAとCの販売数量増加要因、Bの販売単価下落要因を営業担当に、Cの原価削減要因を製造、仕入担当に確認することになります。
実際には扱う商品の種類が多く(前の会社での数百種類ありました)、分析はこんなに簡単ではありますんが、販売数量の多い商品にターゲットを絞ったり、分類を活用するなどして、対応していました。
利益が固まる前でも決算分析は進められる
前の会社では月次決算(速報ベース)を作成するのに月初4営業日を要していました。(仕入の請求書が全部届くには3日はかかるため、これが限界です。)
通常のペースでは月次決算があがって、残る1日で決算分析資料を作成しないと役員会に間に合いません。
ただ売上高は顧客に請求書を送る都合上、月初の1日で確定します。
売上のデータは月初第2営業日から利用可能になり、売上の分析作業が可能になります。利益が固まらなくても、決算分析は進められるのです。
先ほどの例では、売上高と粗利の額が算出でき、増減要因の分析を行うことができます。もちろん実際の売上総利益と粗利は異なりますが、大きくブレルことはなく、売上総利益の水準をある程度推定することができます。
売上高は企業活動そのものであり、これを分析することが重要です。
固定費の増減要因を把握するのはそれほど大変ではありません。
外部からの決算分析の限界
最初に述べましたように、銀行等外部の人間からは、手に入る売上の情報は少なすぎます。
私は銀行から製造業に移ることにより、決算書を見る側から作る側に変わったのですが、情報量の違いはあまりにも大きすぎます。
詳細な情報を出してくれる企業はほとんどないでしょうから、ヒアリング等で多少なりとも埋めていくしかないと思います。
そのためには取引先の内容をよく把握しておくことが一番なのは言うまでもありません。