昔は借入金の多い企業は警戒された
久しぶりに、経理・財務分析の話を書きます。
私が決算書を渡されて、貸借対照表を見る時、まず目が行くのが借入金の残高です。
銀行員時代から続く昔からの習性です。
私たち世代の感覚からすれば、借入金の多い企業は要注意という認識です。
財務比率の中でも借入依存度(借入金を総資産で割ったもの)が、とりわけ重視されました。
昔は借入金の利率が高かった
かつて借入残高の多い企業が警戒されたのは、金利負担が大きく、経営を圧迫するからです。
最近の銀行員の方や会社で経理に携わる方には信じられないかもしれませんが、私が銀行に入った当時の銀行の貸出金利は9%くらいが普通でした。
財務省の統計に法人企業統計調査(GDP推計等の基礎となる重要な統計です)といものがあります。
これによると私が銀行に入った1976年度の借入金の平均利率は9.1%という数字が出てきます。
当時は10%以上の金利も珍しくありませんでした。
1976年度の企業の売上高営業利益率は3.2%、これに対し支払利息を売上高で割った比率は2.8%にもなりますから、営業利益の大半が利息の支払いで飛んでしまうことになります。
借金がいかに経営の重荷になるかお分かりになると思います。
ちなみにその頃の住宅ローンの金利が8%くらいですから、当時の銀行は住宅ローンに熱心ではありませんでした。企業に貸した方が金利が高く儲かるからです。
なぜそんなに貸出金利が高いのかというと、預金金利が高いからです。
当時は自由金利の預金はなく、銀行の定期預金、普通預金の金利は金融政策により決定され全国一律です。
私が銀行に入った当時は1年定期預金で7%くらい、普通預金でも2%くらいの利息が付きました。
こうした高金利はバブル期を境に終焉、今は歴史的な低金利の時代です。
法人企業統計から借入金利子率の推移をみると一目瞭然です。
2019年度の借入金の平均利率は1.0%、1976年度から実に8%も下落しています。
支払利息を売上高で割った比率は0.4%しかありませんから、借入金が収益を圧迫する懸念は大幅に薄れています。
昔は銀行の融資先に対する姿勢も厳しかった
昔、銀行で借入の多い企業が問題視されたもう一つの理由は、企業の資金調達が厳しかったことです。
当時の企業は自己資本比率も低く(1976年度は14%弱しかありません)、必要な資金はもっぱら借入金に頼っていました。借入依存度は40%程度で推移しており、売上高の伸びは今よりのずっと高く、資金需要は旺盛です。
これに対し原資となる預金は思うように集まらず、各行とも苦戦していました。
当然取引先の融資要請には預金の制約からフルに応えられず、融資先を選別することになります。
このため、銀行の融資先に対する姿勢も厳しくなり、借金が多く財務に問題を抱えている企業は新たな資金調達がままなりません。
借入依存度の高い企業は金利負担が大きいうえ、先行きの資金調達が困難ということで、銀行から警戒されたのです。
低成長が続き、企業が収益力強化により自己資本比率をアップさせると、この状況は大きく変わりました。
企業の資金需要は大幅に減少、今の銀行は貸出先の確保と資金運用に悩んでいます。
お金を借りてくれる企業は銀行にとってたいへんありがたいお客様です。
業績と財務内容が悪化しない限り、銀行は積極的に融資に応じてくれます。
昔は預金の多い企業が銀行から歓迎され、借金の多い企業は敬遠されました。
今は、借入のある企業が取引先として歓迎され、預金だけの企業は歓迎されません。
貴重な収益源である利息を払ってもらえるからです。
設備投資等で借入が必要になった時等は、無借金の企業より借入実績のある方が、借入はスムーズです。
借入金も負債の一部でしかない
こうしてみると、負債の中から借入金だけを取り出してあれこれ言うのはもはや時代遅れかもしれません。
借入金も買掛金や支払手形などと同様に負債の一部という認識で問題ないと思います。
むしろ支払手形や買掛金は約定通り支払わないと信用不安を招きますが、借入金は銀行との関係を良好に保っておけば弾力的に対応してもらえるので、借入の方がよい場合があります。
大事なことは、貸借対照表中の負債のウェイトを減らし自己資本比率を高めることにと思います。
ちなみに、負債及び資本に占める借入金、仕入債務(支払手形、買掛金)、その他負債、純資産の比率の長期トレンドを先ほどの法人企業統計調査からみると下記のグラフになります。
純資産が増加する(自己資本比率が高まる)中で、借入金もまだ3割近くを占めています。
低金利はまだまだずっと続きそうですから、借入をいかに活用するかが企業にとっても重要と思われます。