修繕費は税務調査で目をつけられる
税務調査で目をつけられるのが修繕費。
機械などが調子が悪くなって修理した場合、これが税務上修繕費と認められるかどうかという点です。
修繕費と認められなければ、資本的支出(設備投資の扱い)となり費用として落とせず、その分利益が増加し、法人税も増加することになります。
その基準は国税庁のホームページに次のように記載されています。
具体的なフローチャートは下記サイトをご覧ください
大原則は
「固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費」
となります。
ただし①20万円未満ないしは②3年以内の期間を周期として行われる修理・改良等の支出は修繕費と認められます。
次に形式基準があり、資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額については
①金額が60万円以内ないしは②前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
については修繕費として損金計上することができます。
この辺は会社で経理業務をされている方には常識と思います。
形式基準の適用に注意
ただ、形式基準がオールマイティかというとそうではありません。
この基準は「資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額」について適用されます。
当然ながら「当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分」については認められません。
能力がアップする部分は認められないのです。では能力アップするかどうかをどう判断するかというと、結構難しい問題です。ただ、形式基準の範囲内の支出では設備能力が明確に向上するケースは少ないと思います。
問題は当該修繕をする際の社内稟議書に「設備の性能がアップする」などという文言がでてくる場合です。申請者としては稟議を通すためにメリットを強調する傾向があり、こうした表現が時折でてきます。
税務調査では稟議書は必ずチェックされますから、調査員がこうした表現を見つければ、「これは修繕費ではなくて資本的支出でしょう」と指摘され反論できません。会社の文書で認めてしまっているのですから・・・
私は社内の稟議書は全てチェックしていましたが、特に修繕に関するものは目を凝らしてみていました。
起案者に修繕の内容を確認し能力アップに繋がるか判断し、不明な場合は税理士に照会していました。明らかに修繕費で処理できる場合は、誤解を招く表現は修正させていました。
修繕を実施するのは主として工場の設備管理者で経理のことは素人、一方経理サイドは工場設備については素人です。修繕の稟議があがってきた時は両者がよく協議して対応することが重要ですが、結構時間をとられる煩わしい作業です。
なお、税務調査員の中には工場設備に詳しい方もおられますので、生半可な知識で応答すると一本取られてしまいます。ご注意を!
形式基準を満たしていなくとも修繕費になる場合がある
一方、「当該固定資産の通常の維持管理のため、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分は修繕費となる」とされており、形式基準を満たしていなくても、通常の維持管理、現状回復に要した費用は修繕費と認められる場合があります。
機械のオーバーホール(機械を部品単位まで分解して清掃などを行い、新品時の状態に戻す作業)は修繕費と認められる例が多いようです。
車等の部品の交換は修繕費となりますが、主要部品(エンジン等)の交換は資本的支出となります。
では何が主要部品になるかというと、厳格な基準がある訳ではないようです。電動フォークリフトのバッテリー交換は私の現役時代は資本的支出という認識でしたが、今は結構議論があるようです。
金額が大きくなるケースが多く簡単には判断できないので、私の場合は1件1件税理士に照会して対処していました。
ただ、税理士と協議しても結論が出ない場合があります。結構グレーなケースは多いのです。
修繕費で対処すると税務調査が面倒なので、無難に資本的支出で対応される方も多いと思います。
ただ私はこちらの論理ができていて税務署にも説明でき、税理士もグレーという見解であれば、ケースバイケースで修繕費で対応していました。
税務調査では担当調査官も何らかの成果(こちらから言うとおみやげ)が必要です。当方に修繕費とした根拠があれば不正経理と指摘されることはありません。見解の相違ということであれば、当方が折れることにより調査官が成果を得ることで、その後の調査がスムーズにいくことがよくあります。
修繕費が資本的支出になると該当期の所得が増えて法人税が増加しますが、その後は減価償却費が発生することによりその分所得が減って法人税も減ります。長期的にみれば納める法人税はほぼ変わりませんから、会社的に損得はありません。
経理に完璧はなく、判断するのは税務調査官ですから、調べれば何かはでてきます。
ならば税務調査官の目を修繕費に向けてもらうのも悪くはありません。